124人が本棚に入れています
本棚に追加
「……た、すけ…て」
体が辛くて、それだけ口にするのがやっとだ。
「助けてあげてるじゃん。当初の約束通り痛くないでしょう。ちょっと気持ち悪いだけで」
少年は耳から口を離し優しく私を覗き込んだ。顔を撫で、頬を撫で、唇を指でなぞる。私はもう、水分が抜けて干からびた状態なのだろう。唇のガサガサが悪魔の指に引っかかって破れる。
「僕やっぱり優しいや。鏡は隠しておいてあげるね」
もう体は崩れ落ちて床に寝そべり声も出ない。そんな私に覆いかぶさるように、悪魔は顔を近づけてきた。今度は正真正銘のキス。唇が合わさる。こんな干物の唇なんて面白くもないだろうに。
だが至近距離で見る少年は今までで一番、無邪気な微笑みをしていた。
「あ……」
何かが入った? いや、私の中から最後の何かが出て行った。
まるで水の中から空を見上げているように、視界がぼやけて映像を結ばない。見えるのはただ色だけ。光から黒へ。ああ私は瞼を閉じたんだ。そしてそれはもう二度と開かない。
「朝ごはん、僕もちゃんと食べるから心配しないでって言ったでしょう。美味しかったよ、ごちそうさま」
耳もその音を最後に、機能を停止した。
「死にたいなんて気取られたらいいカモだよ。悪魔はどこにでもいるからね」
最初のコメントを投稿しよう!