美味しいモノに私はなった

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 飲み屋の男に恋して、貢ぐため会社のお金に手を着けたこと。男とは金の切れ目が縁の切れ目だったこと。もうすぐ決算なのでどうにか帳尻合わせしなくちゃならないんだけど薄々バレていること。到底返済できる金額ではないってこと。 「もうギブアップなの。よくある話だとは思うけど、もう八方手詰まりなのよ」  少年は相槌も打たず静かに聞いていた。そして私が話し終わると、ふーんと言って頭をポンポン撫でる。 「私の秘密聞いたんだから君も話しなさいよ。何で家出したの?」  撫でられるのを気持ちよく感じているのが気恥ずかしくって、少し突き放したように問い詰める。少年は少しだけ迷っていた様子だったけど、すぐあのねと口を開く。 「僕ね、人間じゃないんだ」  少年は羽織っていたパーカーを脱ぎ、さらにその下のTシャツをも脱いで上半身裸になった。  座ったまま体を前にかがめる。欄干にもたれ掛かっていた背が開く。  少年が一呼吸すると、肩甲骨辺りがミシッと音を立て割れた。中から白いものが出てくる。折り曲げていた部分を伸ばすように広げられたそれは、私の背丈以上もありそうな白い翼だった。バサッと優雅に一振りする。  酔いのせいで幻覚を見ているのかとも思ったけど、触れてみると温かい。いっぱいいっぱい撫で回す。そして信じた、この子は人間じゃない。 「天使、なの?」  少年は軽く笑って、違うよと言った。それから広げた翼を一旦閉じる。人気のない跨線橋の上とはいえ、暗闇に純白の翼は目立つだろう。
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