美味しいモノに私はなった

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「おねーさんの自殺止める気なんて全くなかったよ。どうせ死ぬならその前に魂貰おうって計算しかしてなかった。ゴメンネ」  気持ち悪い、気持ちワルい、きもちわるいぃっ。耳がヌメヌメして、顔の内側がジュクジュクして、血がボコボコ沸く。 「昨日直ぐ食べても良かったんだけど、お酒臭いし、人生投げやりな魂ってあまり美味しくないんだよ。とりあえず一晩おいて毒抜きしたんだ」  悪魔は舌の入っていないほうの耳の穴を指で塞いだ。こっちから何かが滴り落ちないようにだろう。 「気分が上がるように声掛けした甲斐があったよ。腐る寸前だった魂が極上ものに変わってる」 「ああぁぁぁぁ……」  抵抗したいのに一秒ごとに力が抜けていく。酷い言葉を口にするたび悪魔は耳から舌を抜くので、そのタイミングで押しのけようと思うのに体に力が入らない。 「もっと叫んで、その声も味になる」 「やぁ……っ」 「なんで耳にしたか教えてあげるよ。魂を吸うのは一般的には口からだけど、それじゃあ声出せなくなるでしょ。悲鳴も美味しいスパイスだからね。あと耳の穴小さいからチビチビ長く楽しめるだろう。頭の脇通るから脳みその香りもつくし」 「はぁっ……、ぐぇっ」  私を作っていたものが耳の穴から抜けていく。私の意識が、私の心が、私の全てが。  気持ち悪い、吐きたい、苦しい、喚きたい。  涙も鼻水も涎も、体中の水分が抜けていくようだ。血液もそう。どこかが切れた訳ではないので表面上血は見えないが、鼻の奥は鉄さびの匂いでいっぱいだ。悪魔はその姿をもはや隠さず、広げた翼は純白だった肩口が真っ赤に変わっている。肩口から先端にいくにしたがって薄くなる綺麗な赤のグラデーションで魅せていた。
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