めぐり逢わせ

3/28
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/1070ページ
 川瀬は衛に包みを渡し、食事の間代わりますと言った。彼は三年程前からここで時々厨房の手伝いをしており、本来は次姉旦子の息子相原大悟(アイハラダイゴ)が経営しているレストラン『DAIGO』で働く料理人である。十代前半のうちに家族を亡くし、天涯孤独の身で調理師免許を取得した苦労人だ。  衛は受け取った包みを開けると、野菜中心の料理が綺麗に盛り付けられていた。ペンションの運営当初は彼女が厨房を切り盛りしており、息子にもそのDNAはしっかりと受け継がれている。彼は姉の手料理を美味しそうに頬張り、病人とは思えぬ食欲であっという間に平らげた。 「ごちそうさまでした」  衛は満足げに手を合わせてからお茶を飲もうと席を立つと、たまたまふと視界に入ったフォトスタンドに気持ちを奪われる。その写真は八年前に当時の従業員全員と、既に死んでしまっている愛犬と共に取った集合写真だった。  その中でもひときわ若い、当時二十歳前後の男の子の姿をじっと見つめていた。彼は当時夏休みを利用して東京から季節バイトとしてやって来た大学生で、翌年の春から大学を辞めて正式な従業員として働いていた。しかし三年半前に客に暴言を吐いてしまったことを悔やみ、黙って姿を消してしまった。恐らく故郷に戻っていると思われるのだが、手紙を送っても戻される状態で今は音信不通となっている。
/1070ページ

最初のコメントを投稿しよう!