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あん子は元気にしてるかい? 八十一歳となった今、我が人生に悔い無し! と言いたいところだが、彼が今どこで何をしているのか? 衛にとっては気掛かりの種となっていた。
それから二日が経ち、最後の客がチェックアウトする日となった。この日を以てペンション『オクトゴーヌ』は閉館することになるのだが。
「つかぬことを伺いますが、お仕事は何を?」
衛は彼に突発的な質問をする。しかし内心そんなこと訊ねるつもり無かったのにと思い少し慌てる。
「今は無職です」
しかし堀江は嫌な顔ひとつせず、正直にそう返答した。
「ここを出たところでやることは無え訳ですな」
「えぇ、まぁ」
彼は不思議そうな表情で衛を見る。すると過去に付けていた運営日誌や宿泊客の住所録が記されているファイルをカウンターの上に並べ始めた
「したらここの四代目になって頂けんかい?」
ペンションオーナーからの突然の申し出に堀江は目を丸くする。たかだか四~五日宿泊しただけの自分にここを継げと? 彼はにわかにパニック状態になっていた。
「あの、仰っていることがよく分かりませんが」
「突然の申し出にお困りなんは無理もございません。ただ五十年前にきょうだい八人で始めたここを無くしてしまうのがどうしても忍びなくなりましてさ、私自身所帯を持ちませんでしたので子や孫はおりません。姉の子が一人おりますが、彼は現在レストランを経営しおりてます」
衛は堀江から視線を外さない。
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