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B:「あ、よかった!今年もここにいた。」
A:「…また来たんですか。寒いのに、物好きですね。」
B:「お互い様でしょ。君も熱心だね。撮りたいものはもう撮れた?」
A:「とれていたら、こんなところには来ないです。」
B:「はは、それもそっか。俺も今年こそ撮ってやるぞー!さあ出てこい、雪女!」
A:「暑苦しいのは嫌い。」
B:「え?」
A:「だと、思います。雪女は。」
B:「あ、そっか。雪の女だもんな。じゃあこっちも冷静に……あ、そうだ。」
A:「?」
B:「去年話した沖縄の海の写真、持ってきたよ。」
A:「!本当、ですか。」
B:「うん、あとは隅田川の桜並木と、瑠璃光院の紅葉の写真も。あとで君のカメラにデータ移してあげる。」
A:「……。ありがとうございます。」
B:「どういたしまして。ところで、モデルの話、あれから考えてくれた?」
A:「嫌です。」
B:「えー、やっぱり駄目?」
A:「まだ信用していないので。」
B:「ちぇっ、分かった分かった。じゃあもっともっと凄い写真撮ってくるしかないな。君に、早く認めてもらえるように。」
A:「?いえ、あの、あなたの写真の腕のことではなく、人間という存在全体のことで、それに……。」
B:「……?」
A:「……あなたが私を撮ってしまったら、あなたがここに来てくれる理由、なくなってしまう。」
B:「……。」
A:「…………。あの…?」
B:「えっ?ごめん、何か言った?さっきの風で耳に雪入ったっぽくて。」
A:「………。」
B:「認めてもらえるまで俺はまた来るけど、いい?」
A:「…私は、」
B:「分かってる。雪のある間しか、ここにいられないんだろ?だから、雪が融けるまで。」
A:「…また、いろんな場所の写真を撮ってきてくれますか?」
B:「勿論。君が、撮るのを認めてくれるまで。」
A:「…そうですか。」
B:「あ、忘れないうちにデータ移すよ。ちょっとカメラ貸して。…はい、転送完了。どう?それはネモフィラの丘の写真。晴れた日は空も大地も一面真っ青になるんだ、綺麗だろ?」
A:「はい……。……あの、いつか私も、あなたをとっても、いいですか?」
B:「俺を?いいよ。俺が君を撮る日に、君も俺を撮ったらいい。」
A:「…ええと……それは……、」
B:「約束。雪女に会えなくても、君を撮れたら、俺はそれで満足だから。だから、その時は。」
A:「………はい。その時は、必ず。」
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