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「こんばんは!」
声高々にバーの戸を潜った。
ぎょっとしたような朝霧さんの表情にしてやったりな気分になる。
「懲りないね、君」
「怖じけずいて逃げた訳じゃないです。気持ちがないのにああいうことしたくなかっただけですから」
「へぇ。あくまで紳士でいるつもりなんだ」
「はい。それが取り柄ですから」
好戦的な態度で挑む。
他の男と同じになりたくない。
体だけ繋げられたらいいなんて、俺は思わない。
心だってほしい。心が大切だ。
愛されて、愛して、求めて求められての関係がいい。
そう願うことは、おかしいことなのだろうか。
朝霧さんに言わせれば、それはおかしいことなのだろう。
わかっている。希望なんてないことは。
この間見た、きっと朝霧さんの思い人であるその彼は、俺とは違うとても男らしい人だった。
童顔で、女っぽくはないけれど決して男らしくもない俺を朝霧さんが好きになってくれる確率はどれくらいあるのあろう。
朝霧さんのタイプはああいうやつで、この間トラブっていたやつも彼ににた男らしい顔をしていた。
遊ぶタイプにもああいうのを選んでいる。
きっと、彼の面影を求めて。そういう意味でも、俺はお役御免なのだろう。
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