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いくら快楽に身を投じても、いくら絶望の淵に立たされたとしても、消えない顔がある。
想いさえも色褪せず、いつまでもこの胸の中に燻っていくものなのだと絶望した。
「じゃあな、またよろしく」
気だるげな空気を残したまま、男が身支度を正しながらそう言って店の裏口から出ていく。
小さく息を吐き出し、ずり落ちたままのスラックスを引き上げる。
「めちゃくちゃしやがって」
憎まれ口を叩きながら汚れたものを綺麗にしていくその作業は、なんとも惨めだ。
悲しいとも思わない。虚しいとも。自分が選んだ道。自分で歩いてきた道だ。
ーー俺たち、付き合うことになった
ずっと密かに想い続けていた人に、恋人ができたと知った。
いつだって堂々としていてかっこよくて、偉そうな俺様な男だった。
自分の恋愛対象が男だと気づいたのはその男のせいで、高校で彼に出会って惹かれる自分が止められず、ああ、自分はそうなのだと認めざるを得なかった。
それでも、同性への想いは報われることは少ない。その少なさに賭けるよりも、関係を崩さない道を選んだ。それは彼の恋愛対象が、女であると知っていたから。
それなのにーー。
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