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「朝霧さん・・・? クローズって出てましたけど、いないんですか?」
そこに、間の抜けた声が冷たい風と共に入り込んでくる。
その時にはもう、飲むのをやめカウンターのなかで蹲り、気分の悪さにグルングルンと回る世界に浸っていた。
元々アルコールには強い自分。吐いたことで完全に酔いきれないままもうなんの液体も受け付けなくなってしまった。
「朝霧さん・・・? え、なにこれ」
入ってきたその声の主は、カウンターの外にまで飛び散ったグラスの破片や倒れた椅子の惨状に息を呑んだ。
「あ、朝霧さん? いるんですか? なにが・・・」
不安そうな声色でカウンターの中を覗き込んだんであろうその声の主は俺を見つけ言葉を止めた。
俺は顔をあげ、据わった瞳でその声の主、日下くんを見やる。
「朝霧さん・・・」
「なにしに来たんだ」
「え・・・。朝霧さんに、会いに。そしたら、しまってて・・・」
戸惑ったような声。
汚れのない澄んだ瞳。
それを、俺は汚したくなかった。
でも、今は、そんなことどうでもよくなったんだ。
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