AF

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「お兄、ホントに?」  これでいいの、と手に乗る重みに、確かめずにはいられない。  振り続ける粉雪の中、公園の一角とはいえ、目の前が急な斜面であればなおのこと。  目線の先には、詰襟のボタンを上まで止めた少年がいる。 『言った通りなら、間違いないよ優花』  でも、と不安顔の優花の周りには、まだ蕾の目立つ紅梅が植わっている。白と紅の対比は、空が灰色であることも相まって、一層鮮やかだ。  フィルムは装填し、巻いた後。シャッタースピードも絞りも、指定の値に合わせた。ファインダーを覗いて、ピントも確認した。後は、最後のひと押しをするだけ。  冬空の最中、全く触れた事のなかったフィルムカメラで、たった一枚を撮影しにきているのは――これが、最後だからだ。
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