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『優花、いい?』
風が止まれば、優花はぎこちなくカメラを構えた。
「いいよ。お兄、見えてる?」
『うん。紅梅が綺麗だ。もう少し右』
声がとても近い。背中に覆いかぶさるように、お兄がいるからだ。優花の目を通して、ファインダーの向こうを見ている。
体を右に向けると、行きすぎだと怒られた。写真が絡むとお兄は細かい。いつもはのんびりしていて、無口な方だったのに。
そうそこ、という声に、体は自然と固くなった。
『駄目だよ優花。力んだら、シャッター押した時にぶれる』
言い訳を、カメラを持っているとお兄は許してくれない。深呼吸で、肩を大きく下げる。
人差し指が、自然とシャッターから浮き上がって。
『本当はさ』
つるりとしたボタンに触れて。
『撮りたかったの』
――下に押した。
『優花なんだ』
かしゃん、とわずかな音がした。
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