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背中に感じる気配は、もうない。過ぎた時間を認めたくなくて、動けなかった。
けれど、慣れない姿勢に腕が痛くなった。ゆっくりと胸の前に下ろす。
ファインダー越しと同じ景色に――ひどいユーレイだな、と呟いて。
――違うよ、と否定されて、目を見張った。
ゆっくりと振りむいた先に、黒いジャンパーを着込んだ人がいた。大人の、男の人だ。
「タイムトラベラーさ」
「……」
ただ瞬きを繰り返した。確かなのは、彼が消えなかったという事だけだ。
幻、ではない。
「会ったことはないから、初めましてかな? 従妹さん」
「い、とこ?」
「それとも……やっぱり久しぶり、が正解?」
手元のカメラに目を落とす。かつて、これを使っていた人。
「花を撮るのが好きだったんだ。ずっと……今でも、そう。でも、どこかで被写体に納得できなかった。違う、って否定する自分がいて」
ようやく理由が分かった、と笑う顔が、ずっと隣にいてくれた人と同じだった。
「ほんとに、お兄?」
首から下がる黒いカメラが、慣れた動作で構えられた。
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