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冬羽とは家が近所で、小学校から高校二年の今まで一緒に登下校をしている仲だ。
男女という性別を乗り越えて、一番親しい友人だと思っている。
さすがに高校は離れるだろうと思っていたのに、蓋を開けてみれば同じ高校で。
ちょっと遠いからバスで通うしかないかなー、と思っていたところに自転車通学の冬羽を発見。
うん、乗るしかないよね。
というジャイアン理論で、冬羽の漕ぐ自転車の後ろに半ば勝手に乗るところから始まった二人乗り登下校も、今では定例だ。
「今日もよく泳げた?」
後部座席から冬羽の腰に両腕を回して落ちないようにしつつ、私は聞いた。
シャーシャー、と小気味よくペダルを漕ぎながら、冬羽は答えてくれる。
「まあな。今日はコーチが来てくれたから、フォームの指導を受けたんだ。早く改善して、自己ベスト目指すよ」
「へー。頑張ってるじゃん、水泳部」
「おう」
何てことない日常会話。
お互いに、今日あったことを報告したり、相手に聞いたり。
「お前は?」
「んー…………あ」
私も、冬羽に話すことがあった。
仮眠して、ちょっと忘れかけてたけど。
「告白、された」
私の報告を聞き、キキィーと急ブレーキをかけて自転車を停める冬羽。
慣性の法則には逆らえず、思いがけず冬羽の背中に顔がぶつかる。
「わっぷ!」
出っ張った鼻は、一番にぶつかって少し痛い。
鼻を抑えながら、私は冬羽の顔を覗き見る。
「ちょっと!いきなりブレーキなんて……」
「答えたのかよ?」
「へ?」
「告白に。返事はしたのか?」
冬羽は真顔で、ううん、いつもより少し怒っているような表情で私を問い詰めてきた。
私にはわけが分からなかったけれど、とりあえず質問には答えないといけない。
「断った!話したこともない人と、付き合うなんて無理でしょ」
それはとても、理に適った言い分。
私は、告白してきた人の名前も知らなかった。
顔はかろうじて校内で見たことあるかも、のレベル。
そんな人と、恋人になんてなれない。
「…………じゃあ俺は?」
冬羽が、さらりと変なことを言い出した。
「? 何が?」
彼の意図が分からず、私は首を傾げる。
通じていない私に対し、冬羽はしっかりと言い直す。
決定的な言葉を添えて。
「……俺なら、お前と付き合える?」
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