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「おはよう、姫月」
翌朝家から出ると、外では冬羽が待っていた。
(いや、うん。冬羽が待ってるのはいつものことだけど。だけどさあ……)
「どうした? 早く乗れよ」
ぽんっと後部座席を叩いて、私に座るよう促してくる。
私は、はぁー、と大きくため息をつきながら前進し、持っていたスクールバッグは自転車のカゴに入れ、いつものように後ろに乗った。
私が腰に手を回したのを合図に、冬羽はゆっくりとペダルを漕ぎ始める。
スタートしてすぐ、冬羽が聞いてきた。
「なあ姫月。英語の宿題やったか?」
当たり障りのない質問。
いつもなら冷静に答えるのだが、今日は違った。
「……あのさ」
「あ、分からない問題でもあったか? なら後で見てやるよ。ほんと姫月は英語苦手だよな」
「いや、そうじゃなくて」
「それとも宿題やるのを忘れたのか? 今日は姫月が当たる日だったろ?」
「……っ、その姫月って呼ぶのやめてほしいんだけど!」
勝手に想像して、続けざまに質問してくる冬羽に、私は意を決して言い放つ。
「…………」
冬羽が黙り込んでしまったので、私は慌てて言葉を付け加える。
「だ、だっていつも呼ばないじゃん!今までは“お前”だったじゃん!いきなり変えられても困る……」
「困るって、何で?」
「何でって……」
そこを聞かれるとは思ってなかった。
困る理由?
そんなの、
「慣れない、し……」
「じゃあ慣れて」
せっかく言ったのに、その理由はしれっと却下された。
なら、却下されない理由を言おう。
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