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世界はいつだって、私を裏切る。
いつも眠る時に思っていた。目覚めたら、ここではない別の場所にいっていなかな、って。新しく、人生をやり直せないか、って。
だけど、これは、想定外だ。
「……え?」
目覚めた私の目に飛び込んできたのは、誰かの頭だった。昨夜も私は、一人寂しく寝たはずなのに。
「ちょ、え」
慌てて体を起こす。服は着てたセーフ。っていうか、ここは私の家じゃない。でも、見覚えがある。ここは……。
「んー、宏美? 起きるの早くない?」
寝起きのかすれた声。聞き覚えのある、声。
眠っていた男が、枕元のケータイに手を伸ばしている。
「……坂上、卓馬?」
「えー、何? 急に他人行儀な」
坂上卓馬は笑うと、私の頬に手を伸ばす。
「寝ぼけてんの? それとも俺、寝ている間になにかした?」
「え、いや、ちょっとまって」
枕元の携帯電話。彼のとは別にもう一つ置いてあるのは、見覚えがある。私のだ。でも、もうずっと前に使っていた機種。
「宏美?」
不思議そうな顔をする、坂上卓馬。たっくん。私の恋人、だった人。
自分の手を見る。寝る前にみたよりも、すべすべだ。しわも、しみも、ない。
「あ、時計」
自分のケータイに手を伸ばすと、画面に表示された時間と日付を確認する。
「……嘘でしょ?」
半ば予想はしていたことだが、そこに記された日付は私が認識しているのよりも三十年前のものだった。
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