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「えーっと何、それじゃあ宏美は三十年後から来たってわけ?」
「そう、信じられないだろうけど」
鏡を見ながら頷く。若い。懐かしい。っていうかもはや、記憶にあるのは別人だな。
「え、じゃあ、五十……?」
「まだ四十九です」
そこは譲れない。
「えー……。信じられん。すげー未来じゃん」
あっという間だったけどね、実際のところ。
「え? ねえ、俺らはどうなってんの? 結婚した?」
たっくんが楽しそうに聞いてくる。
私はため息をつき、気持ちを整えると振り返って、
「別れたよ。大学卒業して、すぐに」
「え、なんで?!」
「お互い忙しくて、就職して」
なんでこんなこと、言わなきゃいけないのか。
「えー、そっか」
つまらなさそうにたっくんは言い、またぽすっとベッドに倒れ込む。
「あーでも、宏美が未来から来てやり直してるなら、今度はうまくできるかな」
そうして笑う。
うまくできるなら、いいよね。
「信じるの? 未来から来たって話」
「いやー、正直五分五分」
半分も信じてるのか。
「嘘だったら嘘で、別に信じたところで害悪はないし。まあ、なんでそんな嘘を急にカノジョがつきだしたのかは気になるところだけど」
「嘘じゃないよ」
嘘だったらどんなにいいか。
確かに、私はやり直したいと思っていたし、今とは別の場所に行きたいとも思っていた。でも、こういうことじゃなかった。別れた恋人のベッドで、目覚めたかったわけじゃなかった。
なんで、こんなことになっているのか。原因がわからない。
「頭がおかしくなったパターンとかは、想定していないの?」
「ああ、そうか。それもあるのか。病院、行った方がいい?」
「とりあえず平気。たっくんが、ダメだなと思ったら連れて行って」
「りょーかい」
じゃあ、とりあえず様子見だねーなんてのんきな調子でいう。事態を理解しているのか、いないのか。
「それじゃあさ」
彼は起き上がると、
「朝飯食いにいこ?」
昔と同じテンションで、昔と同じ提案をしてきた。
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