魔法使いが生まれた日

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 いろいろ話しながら歩いていると、私たちの横をスピードを出したトラックが走り抜けていった。 「危ないなー」 「この道、狭いのにね」  そう話した次の瞬間、ブレーキ音と悲鳴が聞こえた。二人で顔を見合わせると、そちらに向かって走る。  そこでは、一人の女性が頭から血を流して倒れていた。 「ちーちゃん!」  連れと思しき男性が、彼女を揺さぶる。 「頭を打ってるなら、動かさない方がいい!」  たっくんが言って、女性の傍に膝をつく。 「宏美、救急車呼んで」  シャツで止血しながら、彼が言う。  血は、止まらない。  手足はねじれいているし、無事に見えない。助かるとは、思えない。  でもまだ、息がある。  助けられる。私なら。  未来の、私なら。  ぐっと、唇を噛むと、両手を構えた。 「宏美! なにしてるの?」  しかたがない、未来を知っているのは、私だけだ。  魔法を使えるのは、私だけだ。 「どいて」  たっくんを押しのけるようにして、女性の傍に跪く。 「それから、黙ってて」  指先で魔法陣を描きつつ、呪文を唱える。 「宏美……?」  最後の言葉を唱え終えると同時に、ぱーっと光が辺りを満たす。何度も、私が見てきた光景。  そして光が消えた次の瞬間、 「ちーちゃん?!」  女性が目を開けた。  頭からの血は止まっているし、手足もまっすぐで。 「あれ? 私……?」 「動かない方がいいです。怪我は治ったけど、失った血は戻らないから、貧血状態のはず」  そっと彼女を押しとどめる。 「え、宏美、今の……」  たっくんの奇妙なものを見る視線。  しかたない、わかっていたことだ。 「魔法。未来では、誰でも使えるよ」  彼にだけ聞こえる声でそう言って、肩をすくめた。
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