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この時代からだと大体五年ぐらい後。一人の女性が大気中にある謎の物質についての論文を発表した。その物質をある法則に従って動かし、それと対となる言葉を唱えると、自然法則を無視した現象を引き起こすことができる。
今みたいに、人の傷を癒すことだって、できる。
私たちはこれを、魔法と呼んでいる。
魔法は瞬く間に広まって、見つかってから十年後にはいろいろな呪文ができたし、大体の人が使えるようになっている。
大気中にある謎の物質、WC粒子と呼ばれるそれは、未来で発生したものではない。昔からあるものだ。だから、過去でも魔法を使えるはずだと考えた、私の読みは正しかった。
「はぁ……、未来の話、本当なんだ」
たっくんがつぶやく。今、そこ、納得する? ちょっとずれている彼がおかしくて、少しだけ笑った。
私が助けた女性は、念のため入院したらしいが、無事だった。
無事じゃなかったのは私だ。
いろいろ話がややっこしくなるのを恐れて、未来から来たというところは伏せた。それでも、謎の超能力が使える人材として認識されたのだ。なんか大学の先生とかに取り込まれて、魔法を見せる羽目に陥ったりしている。
まあ、しかたがない。とっさのこととはいえ、使ってしまったのだから。
でも大丈夫。私が特別なのだ、というふうにしておけば。WC粒子も、魔法の理論も、大体は知っているけど、黙っていれば。
そうすれば、未来で魔法は発生しない。
そうすれば、やり直せる。
そう、思っていた。
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