魔法使いが生まれた日

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「先日はありがとうございました」  深々と頭を下げたのは、事故に遭ったあの女性だ。 「私のために超能力を使って、いろいろ研究対象になって、大変ですよね。本当すみません」 「いえいえ、そんな」  実際、あのまま日々を過ごしていたところで大学やバイトをうまくこなせていたとは思えない。だったら、ここでちょっと寄り道するほうが不自然じゃないだろう。未来から来た話は、したくないし。 「あの、お世話になっておいて不躾で申し訳ないんですけど、気になっていることがあって」 「はい?」 「あなたの使っている超能力、何かの空気中の物質を動かしている感じですよね?」 「……え?」 「資料映像、何度か見させていただいて。指先の動きで何かを動かして、呪文がそれに呼応している。詳しいメカニズムまではわからないんですが、あなた個人に由来しているというよりも、自然にあるなにかに働きかけているような気がして。ですので、本当失礼なんですけど、私もあなたの研究班に加えてもらったんです」  そういって彼女は笑う。 「あの、あなたは……?」 「あ、申し遅れました。私、大学で物理学を研究している、御手洗智恵子と申します。まあ、まだ学部一年なんですけど、ちょっとコネで研究室に加えてもらってて」  言われた名前に、心臓が跳ねた。  御手洗智恵子。  その名前を知らない人間は、あの時代にはいない。WC粒子の発見者。  思い出す。彼女がWC粒子を発見したのは、一人の超能力者を研究していた結果だと。  それが、私……?  世界はいつだって、私を裏切る。  魔法がない世界に、行けたと思えたのに。  ああ、私が、あそこで、魔法を使ってしまったからいけないの? この女を、助けてしまったから? それも、魔法で?  魔法は、発生してはダメなのだ。見つけられては、いけないのだ。
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