魔法使いが生まれた日

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 私とたっくんが別れたというのは、嘘だ。  魔法が発見されて、みんなが新しい魔法を作るのに熱中しているころ、魔法の暴発でたっくんは亡くなった。  魔法絡みの死者は多い。まだ不完全なものをみんなが使いたがったから。  たっくんが亡くなる前、私たちは結婚の約束をしていたのに。次の日には指輪を買う、約束をしていたのに。  魔法は、発生したらだめなのだ。  見つかったらいけないのだ。  たっくんを、失うきっかけになってしまうから。  それがない世界に、行きたかったのに。  やり直したかったのに。  私が、魔法を作るきっかけになってしまうなんて。そんなのダメ。  考えるよりも早く、指先が動いた。  未来を知っているのは、私だけだ。  やり直せるのは私だけ。  今ならまだ、間に合う。  まだ、この女を殺せば。  そうすれば、WC粒子は発見されないはず。  そうすれば、あの魔法ブームは起きない。  たっくんは、死なない。  指先が動き、唇が呪文を唱える。  これが完成すれば、この女は爆発して、 「マレブリギータ」  つぶやいたのは私じゃなかった。御手洗智恵子だった。 「え?」  私が作りかけていた、魔法陣が無効化される。 「ああ、よかった。合ってた」  御手洗智恵子が笑う。 「資料映像から判断しただけなので不安だったんですが、やっぱりこれでいいんですね。なるほどー」  無邪気に、ただ成功したことを喜んで。 「とはいえまだ不明瞭なところがたくさんあるから、ちゃんと調べないと」  ああ、ダメだ。このままじゃ、魔法が広まってしまう。どうしたら、どうしたら……。
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