理由はいらない

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触れた人肌は奴の手のひらで。 突然のことに星も忘れて顔が熱くなる。 「口、開いてる」 そう言ってから可笑しそうに笑った。 「うるひゃい」 塞がれたまま喋ったらうまく発音できなかった。 そしてその手をそっと退かす。 「プラネタリウム、どう?」 「見れて本当に良かった」 心からの想いだった。 「今、楽しい?」 「うん楽しい」 本当に。 「これからも部活に来ようと思う?」 「思うよ」 何かを丁寧に確かめるような奴の質問は、いつもと様子が少し違った。 最初は奴を追いかけて入っただけだった。 でもアイツは毎日のように面白い話題を提供してくれて、純粋に天文を楽しむ気持ちも出てきた。 アイツへの想いと天体の興味が相乗効果になる。 きっとこの想いを伝えることができなくても、 いや、きっと伝えることなんてできないんだろうけど。 それでもこの部活は大切な青春の思い出になるかもしれない。だって今こんなに楽しいから。 だが そんな心踊る俺は知るよしもなかった。 プラネタリウムの天井を見上げる俺を、アイツは片時も目を離さず見ていたことを。
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