The TORSO

12/17
前へ
/17ページ
次へ
「あなたが伊与田さんのもとへ来て、どれだけの年月が経ったのでしょう。これほどまでにくすんでしまって、伊与田さんは、あなたを大事に扱ってくれなかったのですね。僕が伊与田さんよりも早く、あなたに出逢っていたら……」  柳瀬はトルソーの頸部に頬をすりよせる。人間のような柔らかさはないが、平坦な断面は布地で覆われているため、彼の皮膚に触れているかのようにも感じる。 「どうして僕は、あなたを愛してしまったのでしょうか」  柳瀬はトルソーにすがり、さめざめと泣く。  どうして特定のトルソーに惹かれているのかという理由はわかっている。  だが、言葉では言い表せないほどの情熱が、苦しさが、切なさが、ときおり柳瀬を悩ませるのだ。  どうして彼は人間でないのか。  どうして僕はトルソーでないのか。  どうにもならない現実に柳瀬は幾度となく涙を流してきたが、結局は同じ答えに落ち着く。  ――あなたが存在しているだけで、僕は嬉しいのです。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加