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「僕は思うのです。僕が伊与田さんに一人前のテーラーとして認められたら、僕はこの店を出なければならないでしょう。ここは伊与田さんのお店なのだから。もしかしたら伊与田さんは、僕に店を継いでほしいと思っているのかもしれませんが。僕は彼が僕をどう思っているのか、最近あまり考えないようにすることにしました。そのほうが、きっと僕たちはうまくやっていけると思うのです。あなたはどう思います? 伊与田さんと僕は、師匠と弟子としてうまくやっていると思いますか?」
胸筋を指先でなぞりながら、柳瀬は彼へ尋ねる。同時に空いたほうの手で、柳瀬は自らの乳首を摘み、爪の先で弾いた。
「んぅ……っ」
彼に、触れられている気がした。
「ああ……」
柳瀬は喘いだ。
ストイックなまでに紳士的な柳瀬の姿はそこにはない。そこには内からこみあげる熱情に、じわじわと犯されていく、ひとりの男がいた。
柳瀬は乳首を愛でながら、もう片方の手をするすると陰部へと伸ばしていく。衣類の上からでも自らのそこが興奮しているのだとわかった。
「触って……僕に触れて……」
柳瀬は自らの手を彼に見立てて、彼の優しい手つきを想像し、そっと触れる。瞬間、びりりとした刺激が下肢を走り、柳瀬は息をつめた。
「っは……」
下着が濡れていく。柳瀬は口元を抑え、快楽の熱が冷めるまで、じっと耐えた。傍らのトルソーは横たわっているだけで、柳瀬の身体を抱きしめることはない。彼には手足もないのだ。胴体だけの身体。血の通っていない、がらんどうの身体。服を着せるために生み出された、作りものの身体。
作りものの、身体。
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