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「今度はお揃いのタイを持ってきます。カフスも同系色にしましょう。タイピンは、そうですね――それはスーツが完成したら、僕からプレゼントさせてください」
柳瀬は前髪をさっと後ろへ撫でつける。マネキンのように美しく、ミステリアスな美貌の男が戻ってきた。
「あなたを外に出してあげたい。このまま作業場にいては、寂しいですよね。でも安心してください。僕が伊与田さんから独り立ちしたら、真っ先にあなたを僕の店へ招き入れます。僕の店のウインドウはあなたに務めてもらいたい。もちろん、最高級のスーツを着てもらいますからね。僕の作ったスーツを、これからも真っ先にあなたに着てもらいたいのです。何年後になるのかは、わかりませんけどね」
柳瀬は作業場を片付け、ようやく帰り支度を終える。
「こんばんは遅くまで失礼いたしました。お疲れでしょう。ゆっくり休んでくださいね。スーツは二、三日中に必ずあなたにお届けしますので、楽しみに待っていてくださいね」
仮縫いのままのジャケットを持ち、トルソーに微笑むと、彼もまた、微笑み返してくれたような気がした。
「それでは失礼いたします。ああ、そうだ。今度会ったときは、僕のこと名前で呼んではくれないでしょうか。僕は仁紀。柳瀬仁紀といいます」
柳瀬は深く頭を下げ、作業室をあとにした。
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