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たいていここで話は尽きるのだが、今日の伊与田は機嫌がいいのか、さらに柳瀬に絡む。
「でも寂しいとは思わないのかい? 柳瀬くん、休みの日も作業所にこもってばかりで、僕は少し心配していたんだ。友達からでもいいと思う。やっぱりパートナーがいたほうが人生楽しいよ」
「――お言葉ですが、伊与田さん。私の性的指向はご存じですよね?」
柳瀬が言う性的指向という言葉に、伊与田は言葉を詰まらせた。
「僕はあなたのことも存じているつもりです。ですがこれから先はプライベート。個人の自由にさせていただけないでしょうか」
「まあ、そうなんだけどねえ」
「用事は済みました? 締めの作業が残っているのですが」
「ああ、悪いね。呼び止めてしまって。終わったらまた鍵をかけに行くから、奥に寄ってくれ」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
一日中働いても少しも乱れていない完璧な姿勢で、柳瀬は伊与田の前を辞した。
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