甘い花

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甘い花

 濡れた瞳が、ゆらゆらと揺れていた。  季節外れの夏の匂い。  七色に変わる光。  柔らかく照らされた横顔。  落ちかけの線香花火。  まぶたの裏、ちらちらと通り過ぎる。 「……ふ、……っ」  合わさっていた唇が、僅かな距離だけ空け、離れた。  出来た隙間から零れ落ちた声は、自分のものとは思えないほどに、鼻にかかった甘えたものだった。  自分ですら初めて聞くそれはあまりに甘く、そして、媚びを含んでいて、これが自分が出したものなのかと、ぞっとした。  両頬を包まれ、また唇が重なった。  彼は(ついば)むみたいに、何度も唇を柔らかく()んでくる。  まるで味わうようなその行為は、緩やかな刺激を与え、同時に、もどかしさをも与えてきていた。  じわじわと劣情を煽られ、身体の奥深くで熱が疼く。
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