御心のままに。

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 運命の日。其れは夜明けであった。獄舎に捕らえられた纒の元へ、久遠が罪状並びに帝が下した判決を告げる為に訪れていた。  纒は牢の中より、牢番は其の牢の端にて、久遠を前に膝を付き拝している。纒の姿に、一度瞼を閉じる久遠。其の懐より、一通の書状を取り出した。一刀が下した判決が此処に認められている。 「――纒。お前への処分を言い渡す」  厳かな久遠の声が牢へ響く。纒は依然、拝したまま。 「此処は東、お前は西の隠密。其れが分かった以上、此の宮中を自由に出入りさせる訳にはいかぬ……しかし、帝が知り得ぬ内に随分長く宮中を動かせてしまった……最早、お前を西へ還す事も此方としては許せない」  此処で、一度息を吐く久遠が、僅かに口の端を緩めた。 「して、先で西の帝の元へ帰還する事となっている時雨殿に代わり、后妃様の護衛引き継ぎを命じる」 「は……?」  纒は、驚き思わず頭を上げてしまった。久遠は気に止める事なく、言葉を続ける。 「時雨殿同様、扱いは他国の従者として此方での動きはかなりの制限を受ける事となる。又、時雨殿との接触も制限する」 「お、お待ち下さいませ!私は……!」  戸惑う纒の声を、許さぬ勢いの久遠。 「但し!命関わる時以外は、后妃様の御身へ触れてはならぬ」  言い終えた久遠は、書状を丁寧に折り再び懐へとおさめた。力なく、呆然とする纒。 「久遠様……」  漸く開いた口だが、言葉はまだ出てこぬ様子に久遠は苦笑い、軽く溜め息を吐く。 「お前をどうするにしろ、雪代がいなくては、帝が非常にお困りなのだ。お前を監視する必要もあるしな。后妃様の護衛に至っては、帝も適役に悩んで居られた。后妃様への忠誠心が最も強く、雪代を望むお前ならば帝の不安も和らぐ……此方も、お前を都合良く使わせて貰うとの事」
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