塩ココアとサラリーマン

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塩ココアとサラリーマン

玄関で靴を脱ぎ捨てわざと音を立てながらリビングへ入っていくと、黒く長い三つ編みを二つ垂らし蛙柄のパジャマを着た女がぼくを見上げている。 「わあ、びっくりした」 「また鍵かけてなかったんだけど。ちゃんとかけなよ」 ぼくは彼女の隣に腰を下ろし、彼女の手の中にあるココアを取り上げて一口飲んだ。甘みの中に塩辛さがあり顔をしかめた。 「ここ三階だから平気かと思って」 「三階だろうと地下だろうと世間は物騒なんだよ。あとココアに塩入れたでしょ」 「塩キャラメルが美味しかったから」 砂糖と塩の分量を誤ったのかあまり美味とは言えないものを産み出しながらも、彼女は涼しげな顔でカーペットの上の髪を一本一本拾い上げている。電子レンジが苦手で、水はいつも手をかざしてから飲み、こうすると磁気が弱まるのよと言って夜寝る前には冷蔵庫に携帯電話をしまう。そのくせぼくがテイクアウトしたハンバーガーを物珍しそうに齧った日から好物はテリヤキ味のハンバーガーだし、毎月十八日には特別だからと必ず色の付いた炭酸飲料とポテトチップスを買ってきて食べるのを楽しみにしている、その脆いアンバランスさが心配で、救いようのないほど愛おしかった。     
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