黒衣の婚礼

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 ジェレミー・マシューはコートの襟を立てて寒空の下を歩く。  手には漆黒の薔薇の花束。  足取りは重く、数日間で降り積もった雪を踏み固めていく。  向かう先は屋敷の裏の教会。  五年前、最愛の相手と式を挙げた場所だ。  教会の扉を開け、ジェレミーは中へ入る。  荘厳な雰囲気はそのままだが、あの日以来、この場所には誰も立ち入っていない。  この場所はジェレミーだけの特別な場所なのだ。  あの日、最愛の相手と歩いたヴァージンロードをジェレミーはひとりで歩く。道中、羽織っていたコートを脱ぎ、傍らの椅子に掛ける。コートの下からは黒々とした漆黒の礼服が現れる。  教会の高い天井にジェレミーの革靴の音がカツカツと反響する。  向かう先は祭壇。それもまた、あの日のままだ。 「やあ、トオル。長い間待たせてすまなかった」  祭壇の上には特注で造らせた黒い棺。  細部にまでレリーフが刻まれた美しいデザインだ。  ジェレミーは棺を開け、中を見る。  そこに眠っているのは彼の最愛の花嫁――トオルだ。 「何年経っても、君は美しいままだね」  トオルは目蓋を閉じ、あの日のままの姿で眠っている。  彼はあの日の純白のウエディングドレスを身に着け、安らかな表情を浮かべている。  だがその胸元のドレスは引き裂かれたままで、胸の中央には無惨な刺し痕が刻まれていた。 「トオル……」  ジェレミーはトオルの遺体にキスを落とし、永遠の愛を誓う。  冷たい唇からは薬液の味がした。
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