77人が本棚に入れています
本棚に追加
ジェレミー・マシューはコートの襟を立てて寒空の下を歩く。
手には漆黒の薔薇の花束。
足取りは重く、数日間で降り積もった雪を踏み固めていく。
向かう先は屋敷の裏の教会。
五年前、最愛の相手と式を挙げた場所だ。
教会の扉を開け、ジェレミーは中へ入る。
荘厳な雰囲気はそのままだが、あの日以来、この場所には誰も立ち入っていない。
この場所はジェレミーだけの特別な場所なのだ。
あの日、最愛の相手と歩いたヴァージンロードをジェレミーはひとりで歩く。道中、羽織っていたコートを脱ぎ、傍らの椅子に掛ける。コートの下からは黒々とした漆黒の礼服が現れる。
教会の高い天井にジェレミーの革靴の音がカツカツと反響する。
向かう先は祭壇。それもまた、あの日のままだ。
「やあ、トオル。長い間待たせてすまなかった」
祭壇の上には特注で造らせた黒い棺。
細部にまでレリーフが刻まれた美しいデザインだ。
ジェレミーは棺を開け、中を見る。
そこに眠っているのは彼の最愛の花嫁――トオルだ。
「何年経っても、君は美しいままだね」
トオルは目蓋を閉じ、あの日のままの姿で眠っている。
彼はあの日の純白のウエディングドレスを身に着け、安らかな表情を浮かべている。
だがその胸元のドレスは引き裂かれたままで、胸の中央には無惨な刺し痕が刻まれていた。
「トオル……」
ジェレミーはトオルの遺体にキスを落とし、永遠の愛を誓う。
冷たい唇からは薬液の味がした。
最初のコメントを投稿しよう!