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それからジェレミーは指輪を取り出し、改めて交換の儀式をする。
「これで私と君は、正式に夫婦になった。愛しているよ、トオル」
ジェレミーは持ってきた黒い薔薇の花を棺の中に敷き詰める。
黒く染まっていく最愛の花嫁。
トオル。
「やはり君には黒が似合う。美しい。最高だ。これで君は永遠の美しさを手に入れたのだ。それは決して衰えることのない、永久の美だ」
ジェレミーが語りかけると、トオルはふんわりと笑みを浮かべる。安らかな眼はそのままだ。
ジェレミーにとっての愛とは、けして朽ち果てない永久の美である。
主治医として、他の科の医者からトオルの未来がそう長くはないことは訊いていた。いつかは衰えてしまうトオルをジェレミーは見ていられなかった。
だからトオルに永遠の愛を授けた。
そしてまた、ジェレミー自身も――。
「現世に別れを告げる時が来た。私もそちらに向かおう」
ジェレミーは懐からナイフを取り出し、神への祈りを捧げてから、ゆっくりと呼吸を整え、それから自らの胸へと突き立てる。
「……あぁ……トオル……」
ナイフを突き立てたままジェレミーはトオルの亡骸に覆い被さる。
「トオル……私は君を愛している……これからも、ずっと先も……」
ジェレミーはナイフの柄を逆手に握り、ぐりぐりと傷口を抉りながら引き抜いていく。
ごぽごぽと溢れる鮮血はジェレミーの礼服に染み渡り、横たわるトオルのウエディングドレスも穢していく。
ナイフが半分ほど抜けると、ジェレミーは大きく息を吐き、残りは一気に引き抜いた。
出血量はいままでの比ではない。まるで水道管が破裂したかのように、ジェレミーの胸からは赤々とした液体が溢れ出る。
「トオル……――」
ジェレミーの血液はトオルの純白のウエディングドレスに降りかかり、じわじわと赤く、そして黒く染め上げていった。
「――我が愛しの花嫁……」
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