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目が覚めると、そこには豚の陶器の置物が置いてあった。
何だこれはと寝起きの認識が曖昧な頭のまま、私は手のひらに収まるそれを、たちまちやってきたごみ収集車へそれを棄ててしまった。
それが過去の自分の宝物で、昨日部屋の掃除をしている際に見つけ、懐かしく枕の横に自ら置いたのを思い出したのが朝食のスクランブルエッグをみんな平らげ、付け合わせのレタスを1枚端から食んでいる時であった。
「何かとても大切なものだった気がするのだけれど」
しかしどうしてそれが宝物かは一向に思い出せなかった。
それはある年の祭の日、その後何度も何度も学生の自分が友人と訪れることになる祭を、まだ十の指で来た回数を数えてたる年の頃のこと、
あれは祖母が私に買ってくれたものであったことを思い出したのは真昼中のこと、母に祭のことを聞かされた為であった。
祭の、前年文化遺産に登録されたも、今年は雨で全ておじゃんになりそうであると、二、三の寂れた町並みの口述描写に重ねて「寂しいね」と聞かされた時であった。
しかしどうして祖母がそれを買ってくれたのか。それは当日姉の幼稚園にいた母には一向わからぬことで、私と祖母以外の誰にもわからぬことであった。
「ああそうだ、あの時私が泣いたのか」
りんご飴が欲しくてぐずった私と通りがかった瀬戸物屋で、涙まみれの私の目を一時、ほんの一時止めたその豚の陶器を目ざとく見つけ、私に買って渡してくれたことを、和室の入り口に姉のヴィヴィアン・ウエストウッドの赤いシャツがハンガーで引っかけられているのを見て思い出したのは、もう夕陽が傾いて空は紺へと姿を変え始め、黒枠の中でニッコリと笑う祖母へ十年来の習慣でご飯を供えに来たときであり、その頃収集車は収集物を収集所に山積みにし、豚はとっくにその中にしっかり埋もれてしまっていただろう後のことであった。
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