太古よりようこそ

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 突然、音を立ててドアが開いた。十悟が驚いて顔をあげると、男は薄暗い研究室へ早足で侵入した。鎮座されたタイムカプセルに目をやること無く通り過ぎるのを見てホッとしたのもつかの間、十悟は男に殴られた。  椅子から転げ落ちた十悟は男を見上げた。長男の一郎だった。 「百美から聞いた。お前、まだお見舞いに行ってないんだってな」  告げ口をされたらしい。面倒なことをしてくれたな、と十悟は思った。 「延期してるだけだよ。いつか必ず行くよ」 「いいから明日、行って来い」 「いやだ」  襟口を掴まれると、十悟は片腕一本で引き上げられた。一郎と視線が交錯する。  一郎。十悟や百美を含めた大兄弟の長男。  今はタレント業で忙しく世界を飛び回っているそうだが、生来の面倒見の良さを発揮して今でも兄弟を取りまとめている。今回のお見舞いを企画したのも彼だった。子供の頃に十悟がいたずらをすると、母に変わって説教をして泣くまで殴って反省を余儀なくさせた。まっすぐな性格は今も変わらないようである。 「明日の十四時に時間をとってある。マザーに会って来るんだ」 「百美から聞いてるでしょ? この研究の結果が出たら必ず行くって」 「結果なんてどうでもいい。千一(せんいち)と千次(せんじ)の間がお前の番だ。忘れるな」 「兄さん、少しは僕の話も聞いてくれよ」 「質問があるなら受け付ける」  射抜かれるような視線だった。十悟は思わず視線をそらした。  一郎は皆が尊敬する長男。千一と千次は平泳ぎのメダリスト。百美ですらちょっと前までアイドルとしてテレビに出たりしていた。対して十悟は些細なことで家を飛び出し、しがない研究者としてほそぼそとした生活を送っている。出来た兄弟の功績を聞く度に十悟がどんな思いを抱いたか、一郎には理解することも出来ないだろう。そうでなくても主張を曲げたりすることはない。 「成果も無しに、どの面下げて行けばいいんだ?」  その質問は、十悟の口から出てこなかった。
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