「遠き山に日は落ちて」

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 今日の和巳は何となく考え込んでいるようで、いつもの快活さがなかった。史の隣に腰かけて、次の電車にも乗る気配がない。 「何かあった?」 史がきくと、和巳は心を決めたように切り出した。 「今日就職課へ行ってみた。来年からは就活始めなきゃ駄目でしょ。史はどうするの?」  史は黙る。考えていることはある。和巳は史が答えない訳が分かっているように続ける。 「史は優秀だから、どこでもOKでしょ。それでさ、この先俺たち……」  少し言い淀んだ。史はとう潮時かと思い始める。和巳には隠していたが、史が男と暮らすのは彼が初めてではなかった。これまでにいろいろな男たちと、それぞれに恋愛ごっこを楽しんだ。最初はサークルの先輩。史の住んでいたマンションに連れ込んだ。その次は……。 「史さあ、俺と一緒に、ずっとやってくつもり、ある?」  自分から別れ話を切り出したのは和巳が初めてだった。和巳は一番人間らしかった。苦学生の彼に合わせて安アパートに住み、都電で通学し、『神田川』みたいに2人で銭湯にも行ったりもした。楽しかった。 「本当は俺知ってるんだ。史がいいとこのお嬢さんだってこと」  そうか。穏やかに言う和巳は、史が思っていた以上に史のことをよく理解していたのだ。 「ありがとね、和巳」     
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