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赤い糸
一面に広がる真っ白な雪のカーペットに二人の男女がカメラを持ち構えて足を踏み入れている。そんな二人のレンズの先はそれぞれ異なっていた。女は雪のカーペットを、男はそれを撮っている彼女を。彼女は男に気が付き、声を掛ける。
A(女):「ねぇ、私なんかよりも綺麗な写真を取りなよ」
B(男):「……」
男は彼女に答えないままカメラを構えている。
A:「こんなに長く繋がってるんだよ?」
B:「あぁ、そうだな」
男は生返事してもレンズの先は変えることはない。そんな彼に嫌気を刺したのか、彼女は声をちょっと高める。
A:「ねぇってば!!」
B:「綺麗な写真撮ってるよ。白い雪の中で繋がる赤い糸の先の君を」
A:「……もぅ。勝手にすれば」
彼女の頬はその時、ほんのり赤くなった。そんな彼女の表情を彼は写真に収めないわけがなかったのだった(表紙の写真)。
その日、この男女の二人は写真を撮り終えた後、お互いの冷え切ってしまった手を握り合って帰って行った。そしてそこに残された男女の並んだ足跡はまた雪が降った時に次第に埋まっていくのだった。
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