封筒

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 郵便ポストを開くと一通の封筒が届いていた。俺はその封筒を手に持ってマンションの階段を駆け足気味に登り、自室の163号室に向かう。心臓がうるさい。大きく脈打ち、ドクンドクンと俺の胸を、頭を叩いている。玄関のドアを勢いよく開けて中に入る。後ろ手に扉を閉めると、大きく二つ深呼吸をした。それで落ち着くことはなく、未だに鼓動は荒れたままだ。  ーーーー早く開けろ、早く、早く…  封筒の折り目に指を掛けて一気に破き、中身の書類を取り出す。三つ折りになっている書類を広げると真っ先に目に写り込んだのは『不採用』の三文字だった。  あぁ、またか……  荒れていた鼓動は急速に凪いでいく。脳内に溢れていたアドレナリンはどこへ行ったのだろうか。 「やっぱり、才能ないのかな」  ボソリと口から溢れた。デビューを夢見てレコード会社のオーディションを受け、その度に貰う不採用通知。これで何度目だろうか。この不採用通知は十通は超えているのではないだろうか。何度見ても慣れることなどなく、心臓に悪い。結果を見るたびに意気消沈するのだが、もしかしたらという期待に胸が高鳴るのは止めようがない。  俺は框に腰を下ろした。デニムジャケットの胸ポケットに入っている煙草を取り出し、口に加えて火をつける。限界まで息を吸い、肺の奥まで入れた煙をゆっくりと吐き出す。玄関に煙草の煙が静かに立ち上る。俺はその光景を呆然と見つめながら過去を思い返していた。
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