封筒

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「それにお前なんかに弾かれるギターも可愛そうだよな」  うざいやつらだ…さっさと帰ろう。  「おいおい、無視すんなって」  相手して欲しそうにしている奴らを無視し続ける。相手にする道理もない。  「スカしてんじゃねぇよ!」  木下が俺の肩にかかっているギターケースを払い落とした。その瞬間頭の中が真っ赤になった。気がつくと木下を殴り倒していた。  「いってぇな」  「何すんだてめぇ!」  声を荒げながら隣にいる中山が俺を殴り返してきた。頭に血が上っている俺は怒りの収拾がつかず、今度は殴ってきた中山にも拳を向けた。そのまま二体一の喧嘩となり、結果的に俺は負けた。俺を殴り終えた二人は罵詈雑言を言い放って公園を出ていった。  俺は地面に横たわったまま、悔しさに歯を食いしばりながら涙を流した。目を抑えている手を退けると夜空はどんよりと曇っており、雲隠れしている月明かりがぼんやりと見えていた。それを見ていると自分がとても惨めに思え、流れる涙が止まらない。  自分が出会った感動を馬鹿にされ、その挙げ句小さな意地も守りきれない。なんとも情けない話だった。だから、本当にミュージシャンになってあいつらを見返してやろうと思った。自分が手に入れた世界を実現してやろうと思ったんだ。  その時から俺の夢はミュージシャンになった。  *   *   *
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