13人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
カシャ
「すいません。」
ジッジッジッ・・
「ホント、面倒。巻取りも手動なんて信じられない。」
カチャ
「このフィルムをお渡しするために、あなたを探していました。2年かかりました。高校生ですから私。探偵なんて雇えないし、大人たちに相談するつもりもありませんでしたから。」
「赤いカメラ、可愛いです。ママ仕様ですね。
こちら見てらっしゃいますね。すいません、長々と。雪、降ってきちゃいましたね。
ご主人様ですね、あのベビーカーの中にいるのは女の子かな?男の子かな?風邪ひいちゃいますね。」
「あなたがもし、暗い顔をされていたらこのまま帰るつもりでした、このフィルムは渡さずに。
でも本当に幸せそうな優しい笑顔だったから。」
「もちろん、責めてなんかいません。終わってたんですよね、叔父が海外に行く前に。
だから彼はこのカメラを置いて行ったような気がしています。あなたに惨状を見せたくなかったのかもしれません。だからこのフィルムには、あなたが写っている気がしたんです。
帰ってきた叔父のベストのポケットには、あの部屋のものと同じ写真がありました、ポケットの大きさに焼かれて、パウチされてました。」
「そのフィルムは現像してもらっても、しなくても、捨てても、持っていてもらっても、すべてあなたにお任せします。というかもう差し上げたのですから、どうぞお好きに。
ただ最後の一枚は叔父のことを思ってくださったあなたです。
もっとも、3年以上前のフィルムが生きてるかどうかわからないですけどね。でも、このカメラはライカですから。」
「ありがとうございました。今、叔父を一瞬でも思ってくださって。天国で怒ってるか、笑ってるかわかりませんが。ただ彼の気持ちは私と同じだと思います。」
「どうぞ、幸せでいてください。これからもあの方と、お子様と。その赤いカメラでたくさんの幸せを写してくださいね。」
「はい。私もいつか幸せになります。
ではさようなら、どうぞお元気で。」
〈 fin 〉
最初のコメントを投稿しよう!