2年目の冬

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2年目の冬

「はい、ライカです。マニュアルです。」 「そうですね、露出とかピントとか、本当に面倒ですね。でも一枚だけ最高の写真が撮りたいんです。このカメラで。」 「はい、私のです。でも自分で買ったんじゃないんです。貰いました。貰ったっていうか、叔父の遺品なんです。だから古い物です。 ホント、信じられないくらい面倒で、頑固な叔父に似合ってると思いました。」 「写真部です。叔父に憧れてましたから、迷わずに入りました。 母の弟なんですけど、一番年齢の近い親戚でした。」 「ええ、有名じゃないですけどプロでした。 マンションの一室をスタジオにしてました。小さな部屋を暗室にしていて。 よく遊びに行きました。 暗室にも入らせてもらいました、昔。 現像液の匂いと窓のない部屋の赤いライトが、なんだか別世界みたいで好きだったんです。 今もあるんでしょうか?プロカメラマンの方のスタジオに、暗室。」 「そうですね、初恋かもしれません。おませな小学生の頃から。」 「2年前です、海外で。亡くなる1年ほど前から、ほとんど日本にいませんでしたから、まだピンと来ていないかもしれません。今日までは。」 「私が中学を卒業した年でした。もう2年も経ったなんて信じられない。 あなたを見つけるのにも、2年もかかってしまいました。」
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