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何か話しかけようとしたとき、テーブルに飲み物が置かれていることに気づいた。
つい先ほどはなかったはず。しかし突然現れた記憶もなく、だとすれば最初からあったのかもしれない。
「最初からあったっけ?」
と聞くと、
「あったことになった」
と妙な返答が返ってきた。
安治の姿のタナトスは、ごく自然に、手元に置かれたアイスコーヒーを取った。いつものタナトスならブラックは苦手なはずだが、このときは平気そうだった。
『俺』だから当然か――と安治は納得した。
不意に口のなかに冷たい感触と、香ばしくほろ苦い風味が広がった。
どうやら自分の体が飲んだコーヒーの味が、タナトスになっている自分に伝わったらしい。
二人とも同時に同じ味を感じているのだろうか、それとも。
タナトスになっている安治の手元には、抹茶ラテがあった。
一口飲んだ。いつもの安治には甘すぎるくらいだが、このときはおいしいと感じた。甘くて気分が落ち着く。
飲んだ後、口のなかにざらついた感触が残り、喉もざらついた。なんだか粉っぽい。
十秒ほどして、むせた。目の前の安治も同じく。
同時に飲んだらどうなるんだろう――。
相手も同じことを考えたのか、安治のほうを見ながらアイスコーヒーを口に含んだ。安治も抹茶ラテを含んだ。
コーヒーの苦さと抹茶ラテの甘さが混じった味がした。
それから二人ともむせた。
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