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急に場面が変わった。
安治は室内にいた。知らない部屋だ。
相変わらず頭から垂れている長い白髪を指で摘まむ。自分――安治の体――は見当たらない。
きちんと片付いた、ホテルの一室のような部屋だ。
隣の部屋で物音がしたのと同時に、聞き覚えのある声で、
「目が覚めたか」
と聞こえた。
「うん」
と安治は自分が答えるのを聞いた。
エロスが入ってきた。
安治が知っているエロスは、いつもポニーテールとミニスカートがお決まりだった。今は髪を下ろしてショートパンツを穿いている。雰囲気が違うせいか、なんとなくかわいい。
珍しいね、エロスちゃん――と言おうとした。
実際に出た言葉は、
「おねえさん」
だった。
――え。
エロスがタナトスの姉だということは知っている。しかしタナトスがそう呼ぶのは聞いたことがない。
エロスは首を横に振った。
「私はおまえの姉だが、恋人でもある。――恋人として認識してもらいたい」
エロスは嬉しくもなさそうに――むしろ、どこか痛いのを我慢する表情で、事務的に伝えた。
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