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何かを隠しているのだろうか、と安治が思うのと同時に、腹立たしさや悲しさみたいなものが腹に湧いた。
自分の感情ではない、と安治は思った。きっとタナトスの感情だ。タナトスは怒っている。
だからタナトスの声が、
「わかりました」
と無機質に答えたときには、ずいぶんと違和感があった。
「私はあなたを恋人として認識します」
――え。
タナトスが自分を『私』と呼んだ?
エロスは「それでいい」とでも言うように曖昧に微笑んだ。語るべきことを語らずに、ごまかそうとしているような。
タナトスの感情に憎々しさが加わった。恋人と思えと言いながら、少しもこちらを信用する様子のない相手に憤っている。
あまり関わりたくないのか、言うだけ言うと、エロスはさっさと部屋を出て行ってしまった。
「恋人って何――」
内面の混沌と裏腹に、呟かれた問いはやはり無機質に響いた。
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