0人が本棚に入れています
本棚に追加
空は季節を映す。
そういえばあのときの空はどこまでも広がる朱に、赤くまだ熱い光が強く照りつけていた。
しかし今日は青白く晴れて、雲一つない空で、か細い太陽の光が差す。
空は気持ちを映す。
あの日、私たちは別れた。お互いのその先を見据えて。期待と郷愁を胸に。
そして今日は久しぶりに彼に会う日。
今までは「空」といわれるとあの日の夕焼けを思い出していた。
でも、今日からはきっとこの空を思い浮かべるだろう。
「久しぶりね」
私は彼を前にして挨拶をする。
「ごめんね、お葬式にも行けなくて。やっと少し気持ちの整理ができたの。きっとあなたは忘れてくれというだろうけど私は絶対に忘れない。あなたがこの世界にいなくとも私の中で永遠に行き続けられるように。今でもあなたはこの空の上から見守っていてくれるよね。だから私は寂しい時に君を、空を見上げるよ。だからこれからも私を見ていてね」
線香の煙が空高く上っていく。きっと君は私を見つけてくれただろう。一筋の太陽の光が私を照らしたようだった。
お墓を後にして私は彼との思いでの場所に向かう。そこは私と彼の出会いの場で、私の散歩コースの一部だった。ちょっとした雑木林を抜けた先の切り立った崖。私はその縁から夕日を見るのが好きだった。そこからは夕日に照らされた町が俯瞰できる。町を見渡す景色はいつでも壮観であるが夕方時は格別なのでる。あの日も私はここから夕日を見ていた。そして、彼と会い、それからこの場所が以前に増して特別な場所となった。でも、彼がいなくなってからは一度もここには来ていない。
あいにく今は夕日を臨めない。それでもやはり、ここには思い出の匂いがする。
崖の縁に立ち、手を広げる。
そして、彼の名前を叫んだ。
その声は遠く響き、きっと彼に届く。
そして最後にもう一度だけ、私は空を見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!