夢みたいな現実か、現実みたいな夢か

2/19
前へ
/19ページ
次へ
「わあ――」  彼は初めての景色に感激した。ぐるっと周りを見渡していた。  自分の家の庭なのにこんなに気持ちいいと思ったことはない。  自分の部屋の窓が眼下にあって、中がぼんやり見えている。 「――!」 ――そっか。木の上ってこんなに高いんだ。  彼は細い足をぶらぶらさせた。  庭にある太い木の枝がごつごつとぎこちなく自分を抱いている。ちょっぴりお尻が痒い。 「――そんな高いところに行っちゃったの? 届かないの……!」  下から声がした。  髪の毛をお下げにして両耳の下から垂らした、緑の目の女の子。  自分の方にいっぱいに手を伸ばしている。 「ロン、いつもはロンの頭に手が届くのに、届かないの――」  そう言って何度もジャンプしている。  ワンピースの裾がジャンプする度に蝶のようにひらひら踊るのだった。 「届くよ。アンジーは天使なんだよ。――天使みたいにふわふわなんだよ」  そう返事をしていた。 「とどかないの! 行きたいの!」  まだ声を上げている。心なしか目を潤ませて。 「とどくよ!」  そう、大声で返事をした。――彼女に負けないくらい大きな声で。 「ロン、行くの、そこに行くの――!」 「いいよ、来なよ!」     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加