夢みたいな現実か、現実みたいな夢か

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 さらに彼女の身体を強く抱く。腰に手を回して撫でてやる。 「……」  何か聞こえる。彼女が何か言っている。小さすぎて聞こえない。  答える代わりに彼女の身体にキスをした。  まずはもちっとした頬。くっと骨が出た鎖骨。    鎖骨の下で彼を押し返すふくよかなふくらみ。  どんな果実よりも柔らかくて彼の唇をむしろ包んでくれた。  頬を当てたらふっくらしているのがよく分かった。――申し分ない。いつにもまして豊かに実っている気はするけれど、彼女のものだ。自分が何か文句を言えるわけではない。  彼はこの時ばかりは素直に欲情した。  いけないと分かっていて食べる禁断の果実だと思った。  味を知ってしまって、もう我慢できないのだ。 「――の……、はっぱ……」 「――」  変なことを言うと思った。彼女の声が確かにするのだが、「はっぱ」とは何だろう。  彼は何だろうと思いながらも抑えられない欲を彼女にぶつけていた。接吻を落とし、彼女の身体を撫でた。 「……の、葉っぱなの……」 「――葉っぱか?」  意味が分からなくなってきて、彼女のことを今にも食らい尽くそうとしていた手を止める。  唇に俄然違和感を覚えて顔を離した。 「はっ――」  自分の唇からはらはらと緑の葉が落ちてきた。     
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