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この時代の人間にしてみれば、旧時代の遺跡といったところか……僕と同じだな……。
だが、水面の紺碧の色も、寄せては帰る波のリズムも、僕の知っている海となんら変わりはない。
大気と同様、海水にはまだ放射性物質が少なからず含まれているようであるが、それもナノマシンによって確実に除去が進んでいる。もちろん、こうして外界へ出る時にはガイガーカウンターの携帯が不可欠な状態ではあるのだけれども……。
また、かつて中堅都市のあった内陸部の平原にも行ってみたが、そこには放射性物質を吸収するというヒマワリの黄色い大輪が、どこまでも続く青空の下で一面に咲き乱れていた。
遠く山際には森の緑も広がっており、その手前の草原には野生化した牛の群れが豆粒のようになって見える。
いまだ戦争の傷跡残るとは言え、人類の文明と同じように、この星の自然環境も徐々に回復へと向かっているのである。
そんな人と自然の逞しい姿を見て、僕も負けてはいられないな……と思った。
目を覚ましたとはいえ、なんだかまだ夢の中にでもいるような感じで、僕の中にある時計は100年前で止まっている……だが、いい加減、この時代に生きている人間としての自覚を持たなくては……。
まずはその第一歩として、この天を仰いで咲く一面のヒマワリを前に、僕はイヴに告白をすることにした。
「あのさ、イヴ……こんなこと突然言われて困るかもしれないんだけど……僕と、結婚を前提につきあってくれないかな? 僕はその……君のことがなんだ!」
目を開けて、初めて彼女を見た時から一目惚れしていたのかもしれない……だが、あれ以来、常に傍らに寄り添って、右も左もわからない僕を助けてくれた彼女に対して確かな愛を感じるようになっていたのだ。
「ケッコン? それはなんですか? 何かの契約ですか?」
しかし、彼女は僕の言葉に小首を傾げると、不思議そうな顔をして尋ね返した。
「え? あ、いや……好きあった男女が一つの家に一緒に暮らして、その……子どもを作って育てたりなんかすると言うか……」
この時代にそんな言葉はないのだろうか? 改めてそう尋ねられると困ってしまうが、僕はなんとか説明を試みる。
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