特別天然記念物「旧人類」

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 だからこうして今も僕の傍らにいてくれるわけだが、自分で言うのもなんだけど、僕は旧時代唯一の生き残りという超貴重な存在である。そんな僕のただ一人の専属研究員に指名されたということは、さぞかし優秀なのであろう。  そう思い、選ばれた理由を尋ねてみたのであるが、すると彼女は…… 「別に誰でもよかったのです。わたしがあなたから得た情報はネットワークですぐに共有されますから」  と、照れるでも謙遜するでもなく、極めて論理的な口調で淡々と答えられた。  なるほど。僕の時代でもネットは発達していたが、あれから100年も経つのだから、それは想像もつかないくらいのレベルになっているのだろう。  そんな些細なことも含め、どうやら僕の持っている常識はこの時代において通用しないらしい……これは、いろいろと考えを改めてなくてはいけないかもしれない……。  しかし、そうして考えを改める間もなく僕は〝特別天然記念物〟に指定され、その記念パレードをすることとなった。  ま、旧時代唯一の生き残りなのだからわからんでもないが、そこはやはり人間なので〝人間国宝〟とか、そういうのにしてくれないものだろうか?  これでは、なんだか絶滅危惧種のようだ。別に人類(・・)が僕一人になったわけでもないだろうに……。  宙に浮くオープンカーに乗せられ、この都市のメインストリートをパレードすると、道の両脇にはほんとたくさんの群衆が押しかけ、彼らと特に変わりばえのしない僕の姿に歓声をあげていた。  僕がアイドルや世界一のアスリートなんかだったら、もっと前向きにこの状況をとらえていたかもしれないが、どうにも動物園で見世物にされている珍獣みたいで、正直、あまり気分のよいものではない。  だが、それでもこれだけまた人類が繁栄している様子には、純粋にうれしさの感情が込み上げてくる。  ほんとに、あの戦争で人類滅亡寸前にまで追い込まれたとは思えないくらいだ……。  記憶に残るあの荒廃し切った瓦礫だらけの景色が悪い夢だったかのように、この都市の街並みも病院と同じくらいに清潔で、非常に洗練された文明を感じさせるものだ。
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