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まだ外界には放射性物質が残留しているためか? 都市全体が巨大な半球状の透明なドームで覆われており、その中にとてもスタイリッシュな、無駄な飾り気のない高層建築物が整然と建てられている。
また、リニアと同じに電磁石を使ったこのオープンカーや、他の都市への移動など遠方に行く際に利用する大型旅客用ドローンも、戦争前にも増して人類の文明が進歩を遂げたことを表している。
まあ、仕組み自体は僕の頃と大差ないのだが、操縦は人間が手でするのでもAIの自動操縦でもなく、搭乗者が脳波で行うようになっているのだ。
といっても、頭に電極のようなものを取り付けるでもなく、なんのインターフェイスも用いないまま、ただ運転席に座って無線でするものである。
その操縦方法もいたって簡単で、宙に浮くことをイメージすれば上昇するし、前方へ飛ぶように思えば進み始めるしという感じで、ほぼ歩いたり走ったりするのと変わりないのだという。
さすが、100年も経てばそこまで進化するものかと感心したが……それにしてもよかった。
技術は進歩しても、僕らの時のようにすべてAI任せっきりにはしていない。ちゃんとそこには、人間の意志というものが介在しているのだ。
もしかしたら、あの戦争での反省から、AIにすべてを委ねる社会を改めようとする考えが人類の中に芽生えたのかもしれない……。
「――ここが以前にトウキョウのあった海域になります。あなたの入ったポッドを回収した場所ですね」
そんなこの時代についての理解をより深めるため、イヴの運転するドローンでドームの外へも連れて行ってもらったのだが、見学に訪れた場所の一つが、かつて東京のあった地に広がる大きな湾だった。
巨大な弧を描く切り立った断崖の縁に降り立ち、僕はイヴとともにその静かな湾を眺める。
イヴの話だと、核攻撃により23区がすっぽり入るほどの大穴が開いたところへ、温暖化の影響もあって海水が流れ込み、一見、自然が創り出したかのようにも思えるこの海岸の景色ができあがったらしい……。
その折に僕の逃げ込んだシェルターも海中に沈み、そして、僕だけが奇蹟的に生き延びたわけであるが、海面から突き出た奇岩のように見えるものは、よくよく覗えば超高層ビルの残骸のなれの果てである。
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