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1、隠れやすい田中くん
ぼくは毎日きゅうりを食べる。きゅうりに豊富に含まれるカロテンやミネラルを摂取するためではない。有り余るきゅうりの処分におわれているわけでもない。ただもう毎日きゅうりを食べる。あの日からずっと、ほぼ毎日。
『きみは本当に美しい。はじめてきみの姿を見たとき、ぼくの心臓は異様に跳ね上がった。それからずっと胸の高鳴りが止まらない。もういつでもきみのことばかり考えている。自分でも心配になるくらいだ。
きみの底知れない魅力がぼくを惹き付けるんだ。同じ人間とは思えない、まだ見たことのないような世界がきみの後ろに広がっている。ぼくはその正体を知りたいんだ。
だからその、要するに、きみのことが…ぼくは、すきなんだ。よかったら、ぼくと…』
「ぼくと‥‥つきあってください。」
そこでぼくはペンを置いた。
ちょっとくさすぎるだろうか。小さく声に出して読み返してみる。いや、きっと、これぐらいじゃないと彼女には伝わらないだろう。ありきたりの告白は、聞き飽きているに違いないのだ。なにしろ彼女はあんなに魅力的なのだから。
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