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2、きゅうりの出現
終業のチャイムが鳴り響く。いつものようにこれからひとりでお家に帰っておやつを食べますがなにか?というような顔をして席を立つ。騒ぎたてる同級生たちの間を華麗にすりぬけて教室を出る。彼女の方へは見向きもしない。すべてシナリオ通りだ。この上なくロマンティックでドラマティックなぼくの告白ショーが幕を開ける。
ぼくはひとり夕暮れの河川敷に立っている。夕日に反射してきらきらと輝く川面。秋の終わりを告げる少し冷たい風。遠くから響いてくる子供たちの楽しげな声。
高鳴る鼓動。手の平は汗でびっちょりと濡れている。でもぼくは落ち着いている。大丈夫だ。
強く、そして静かに、ひっそりと心の奥底で燃やし続けてきた炎。今こそ、きみの心のろうそくに火を灯す時。
そして、彼女はやってきた。
髪の毛が、風になびいて揺れている。真っ直ぐな視線がぼくを真正面から捉える。ぼくも真っ直ぐ見つめ返す。余計な言葉や振る舞いは不要だ。今この瞬間、ぼくの想いこそが世界の支配者である。
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