この世界は迷路 たとえ柵がないのだとしても

5/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 図工の宿題で『あいさつ運動ポスター』を提出したのは学年で二人だけだった。  背景が真っ黒な『あいさつ運動ポスター』は、見れば見るほど変だったが、先生たちも友達も誰も何も言わなかった。  私は知らなかったが、ポスターは町の『あいさつ運動ポスターコンクール』に提出されることになっていた。学年で二人しかいなかったので私の絵も提出された。  そして『参加賞』で、賞状と鉛筆をもらった。ちなみにもう一人は『優秀賞』で賞状と二十四色の色鉛筆とノートをもらっていた。  母は大喜びだった。 「ほら、お母さんの言ったとおりにしてよかったでしょう?」  そう言って、賞状を見ながらにやにやしていた。  学年で二人しかいなかったこと、参加賞は全員もらえる賞であること、もう一人は優秀賞だったこと。何度も説明したのに、母は聞いてくれなかった。  追い打ちをかけるように、そのあいさつ運動ポスターコンクールの全ての作品が地元銀行に一週間ほど展示される、そう担任に言われた。  目眩がするようだった。  私は母にそのことを言わなかった。言ったら、母はきっと一緒に見にいこうとする。もしかしたら、そこで写真を撮ろうとするかもしれない。  そんなの絶対に嫌だ。そう強く思った私は、展示期間が早く終わりますように、知り合いがそのポスターを見ませんように、もし見たとしても母に言いませんように、とずっと願い続けていた。  それが通じたのか、何ごともなく展示は終わり、ポスターが私の手元に戻ってきた。  暗闇の中で笑う女の子と男の子、空を飛ぶ黄色い鳥、赤い文字。  やっぱり変だ。  捨ててしまおうと思ったが、学校で捨てて見つかったら厄介だし、家のゴミ箱でも母に見つかるかもしれない。  いつか機会をうかがって捨てよう。私はそう決めると、それを丸めて本棚に突っ込んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!